『武将ジャパン』大河コラムの、第31回後半部分に関する疑問点です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第31回「諦めの悪い男」 - BUSHOO!JAPAN
(武将ジャパン)
https://bushoojapan.com/taiga/kamakura13/2022/08/15/170304
1.善哉とつつじは大事に思われていないようで、一幡が遊びたいというから善哉だけ来ているようです。これなら善哉とつつじを巻き込まずに始末できそうですね。
比奈が善哉をどうするのかと聞くと、八幡宮で出家させるのだとか。
ここで比奈は失礼すると立ち上がり、扉の向こうを立ち聞きをしています。
そこにいたのは、三浦義村に誘いをかける能員でした。
能員は、北条には先がないと言っています。つまり、両者ともに殲滅する気だと言質が取れたようなもの。こうなったら先手をとる方が勝ちます。
ここのところ、せつは「つつじ殿も呼べばよかったのに」と言っていますから、道がつつじをよく思っていないようですね。あと神社の神職の場合は、出家でなくて斎戒かと思われますが、この当時は神仏習合の概念があるからでしょうか。
それと
「能員は、北条には先がないと言っています。つまり、両者ともに殲滅する気だと言質が取れたようなもの」
とありますが、これに続けて
「鎌倉はこの比企が芯となって動かす」
と言っていますから、寧ろこちらの方が、能員の本心がわかりやすい形で表現されてはいるでしょう。またこの後、千幡が継げば善哉が鎌倉殿になることはないとも言っていますし。
それとここ、比企尼の「(善哉の)鼻の辺りが頼朝に似ている」と、せつの「また遊びにいらっしゃい」にも触れてほしかったです。
そして時政。
2.頼朝様みてえに細かい目配りはできねえから、義時の力も借りたいってよ。
「もちろんでございます」
義時は嘘をつくのがうまくなった。
内心、父を見限ったのかもしれない。そんな猿山の大将みたいな理念表明して何がしたいのか。
この渾身の宣言で、時政には人の上に立つ資格はないとハッキリしました。
義時は嘘をついているでしょうか。
実際義時と時政の思惑は異なると思います。時政が
「伊豆の地とりくと息子たちと娘たち」
を大事にしている、これを守ることは天命だと言っていのは、伊豆の領主としては当然過ぎるほど当然でしょう。
ただ鎌倉幕府の、それも有力御家人としての北条はそれとは違う役割を期待されるわけで、父親の純朴というか、昔ながらの坂東武者的視点からの幕府運営を、自分が補佐しなければならないと考えたからではないでしょうか。
3.「おめえも諦めの悪い男だな」
「最後の機会です」
しかしそれを時政が引き受けると言い出します。お前じゃ埒があかねえ。向こうが承知すれば御の字。そう引き受けてくれるのですが……。
義時は本当に嘘をつくのがうまくなった。
時政にまっとうな交渉ができるわけがないのに、「一応」のアリバイとして父を使うのでしょう。
義時がこう言ったのは、時政の前出のセリフを聞いてからです。この昔ながらの坂東武者である父を、やはり昔からの坂東武者である能員の相手として向かわせることに、何らかの望みを託すと同時に、時政でダメならばいよいよと思っているのが、「かなわなければ」の後に読み取れます。無論「利用」したとも取れますが、時政もそれは理解していたと思われます(後述)。
4.かくして比企能員のところへ時政がやって来ました。
能員は後悔を口にします。
それは頼朝の挙兵時のことで、比企は日和見をして参加しなかった。己がいたら石橋山でも勝っていたかもしれないと言い、そうすれば北条より上につけたかもしれないと語ります。お陰で随分遠回りしたのだと。
「よう踏み切ったな」
「わしは源頼朝という男を信じておった。この婿はいずれでかいことを成し遂げる」
「たいしたものだ」
「なあ、ここらで手を打たんか? 小四郎の考えた案を受け入れてくれ」
「断る」
「もう御家人同士の戦はたくさんだ」
「それはこちらも同じ。しかしあれはいかん」
「頼む!」
「泣き落としが通じるはずもなかろう。ならばこうしよう。九州は千幡。その他は一幡様」
そう挑発されて交渉決裂。これ以上話すことはなさそうだと言います。
しかし、時政もタダでは済まない。
「ひとついいことを教えてやろう。悔やむことなんざ何ひとつねえぞ。あの時お前がいたところで、頼朝様は負けておったわ!」
なんともしょうもない話ですわ。
全然「しょうもない話」ではないのですが。かつては同じ坂東武者であった時政と能員が、その後の出方の違いでその後が大きく変わってしまい、またその後の新しい体制の中で、再び袂を分かとうとしている辛さが両者からは感じ取れますし、交渉とは、こういう切り出し方もまた必要であるということでしょう。ならば義時の案を飲むかと言われて、それはできないと言う辺り、能員はやはり己を通したいようですね。しかし、これで能員をおびき寄せる大義名分ができ、時政は息子に「手筈を聞かせてくれ」と言うわけで、時政も、自分の役割をわきまえていたと言うべきかと思われます。能員との会話とは全く違った、意を決したような口調ですし。
5.圧倒的な兵力の差は、比企の参戦程度でどうにかなったわけもないでしょう。
あの戦いにおいて、頼朝にとって一番の恩人は、石橋山の中で頼朝をわざと見逃した梶原景時でしょう。
その景時を積極的に追い払った二人がこんなくだらないことを言い合っている。
「頼朝にとって一番の恩人」は、兵を出してくれた北条一族ではないのでしょうか。
確かに景時は見逃してはくれました。しかし見逃してくれた後も、敵を斬り防ぐのにかなり手こずったわけです。あの時、時政と義時は武田信義の陣にも赴いているわけですが、それをまさか忘れてはいませんよね。
あと、その景時を追い払った二人とありますが、時政は署名しなかったことにされていますし、他にも景時を追い払った人物は60人以上います。
それと「しょうもない」「くだらない」と武者さんは言っていますが、それは三谷さんの脚本に対してそう言っているのと同じだと思います。この脚本には期待していたのではなかったのでしょうか。
7.出典は『史記』。お互い、相手になら首を刎ねられてもよいという意味です。
同じ意味で漢籍由来なら、「断金の交わり」、「水魚の交わり」、「管鮑の交わり」もあるのに、なんだか不吉なことを言って来ましたね。
義村が言った刎頸の交わりのことですが、実際この言葉のようにはなるかと思います。物騒ではありますが。
8.彼女(注・政子)はますます美しくなりました。このうなずくところなんて白鷺のような気品があります。尼僧姿がこれまた神々しい。
しかも、目が澄んでいる。義時のようにやつれてぼろぼろにならないし、時政のように濁ってきてもいない。小池栄子さんの演技が今週も素晴らしい。
比奈は自邸で遊ぶ子供たちを見ながら、どこか何かが抜けたような顔です。
堀田真由さんのこんな顔を見るなんてつらい……。
政子と比奈についてですが、まず言いたいのが、武者さんは嫌いな大河であれば、彼女たちをかなり批判しているのではないかということです。昨年お千代をあれだけ批判していますし。
それとこの政子評というか賛辞、こういうのは個人レベルでやって貰えないでしょうか。私に言わせれば、政子も何かしら迷い、ちょっと表情が曇って来たようにも見られますし、比奈は自分が比企一族を裏切るようなことをしながら、一幡とさほど年齢の変わらない自分の子供たちが遊んでいるのを目にしていて、割り切ったつもりでも辛いものはあったでしょう。
9.重忠が「なぜ?」と問うと、義盛は「平家の戦とは違う、仲間だ」と。
「力ある者だけが残る、それだけのこと。我らは食らいついてゆくほかござらん」
良識的な人物も割り切るしかありません。
この2人のやり取りは、その前に時政と能員が話していたのとどこかダブりますね。
10.一幡は侍女に抱き抱えられているものの、そこへ善児が近づき、泰時に目をやります。生殺与奪を握った泰時の判断はわかりません。
泰時の迷いと悲しみだけが希望です。
「泰時の迷いと悲しみだけが希望」とのことですが、この時の泰時の役目は父義時に命じられたように、せつと一幡を殺すことでした。それが彼にはできていないし、そのできていないという事実に対して「希望」はないだろうと思います。実戦経験がなく、父の腹の内を探るにはまだ若い泰時は、この期に及んでやはりためらっていたとでも書いてほしいです。
11.「おれはこの坂東を俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世をつくる。そしてそのてっぺんに北条が立つ!」
目をぎらつかせ歩いていく義時。果たして、宗時はこんな顔になる弟を望んでいたのかどうか。
「おれは…」は、かつての宗時のセリフですね、恐らく宗時が生きていれば、また幕府の在り方も変わったとは思いますが、義時以上にぎらついた存在になっていた可能性も捨てきれません。義時は、本来は実務家のはずですから。
12.思えば全成と実衣も、能員と道だって、幸せでした。最期まで愛する人がそばにいた。
しかし頼家は、やっと信じあい、愛が芽生え始めたせつを気づかぬ間に失っているのでした。
鎌倉殿という最高位にある人物ならば、こういうこともまたありうるでしょう。しかも北条の人々からは、早晩世を去ると思われていたわけで、それも不幸ではありますが、何よりも彼に取っての不幸は、その妻子を自分で守れなかったことでしょう。
それと能員と道、全成と実衣、どちらの場合も愛する人が最後の最後までいたわけではありません。道は夫の帰りを待っていて北条軍に攻め込まれているし、全成は鎌倉を離れた常陸国で処刑されました。
続きはまた改めて。