先日『相棒』の「アリス」絡みで触れた『ハートの7』ですが、あらすじは以下の通りです。ちなみに、この作品が発表されたのは1907年で、その翌年に『ブルース・パーティントン設計書』が発表されています。
ある夜、レストランでの夕食の後、「私」ことルブランは、年下の友人ダスプリーと帰路についた。使用人に休みを取らせたため、1人で家に入った後、用心のため拳銃を出した時、本の間にこのような手紙を見つけた。
「この手紙を開封したら何もするな。さもなくば命はない」
その後、隣に広間から大きな物音が聞こえたが、結局何も盗まれておらず、ただトランプのハートの7が落ちていた。そのカードのすべてのハートの先端には、奇妙なことに穴が空けられていた。「私」はこのことを新聞のコラムに書き、大が反響となった。ダスプリー広間を見にやって来た。その広間は壁一面に、カール大帝(シャルルマーニュ)のものをはじめ、様々なモザイク画があり、一風変わった部屋だった。
その後、「私」のコラムを読んだというエティエンヌ・バランなる人物が来訪し、その広間でピストル自殺をした。そのそばにはまたしても、先端に穴の開いたハートの7が落ちていた。バランが持っていた名刺は、資産家のジョルジュ・アンデルマットの物で、アンデルマットは警察の尋問を受けたものの、心当たりはないといい張った。また、『エコー・ド・フランス』紙に、フランス人技師の設計図を元にした潜水艦がドイツで作られたが、肝心な資料がなく失敗に終わったこと、設計図のコピーをドイツに売り渡したのはバラン兄弟であるという署名記事があった。しかもこの潜水艦の名は「ハートの7」だった。サルバトールという記者のこの記事には、技師の名はルイ・ラコンブであるとも書かれていた。しかしアンデルマットは、この件には口を閉ざしていた。
ある夜、「私」の家にアンデルマットの妻がやって来た。実は彼女はラコンブに密かにラブレターを送っており、それを方にバラン兄弟-自殺した弟とその兄アルフレッド-からゆすられていた。アンデルマットが無言であったのも、それが一因だった。一方アンデルマットは、密かに彼らを監視させていた。アンデルマット夫妻は、2人共彼らから脅迫されていたのだった。ダスプリーは夫人に、サルバトールという記者が夫妻の秘密を知っているだろうから、その記者に、夫が、設計図の原本と一部の資料を持っている事実を伝えるよう説得する。それからしばらくして、夫人に宛てたサルバトールの手紙が、夫人から「私」の手元に届いた。「隠し場所にはその書類はなかったが、必ず取り返してみせる」とあり、サルバトールがこの事件に噛んでいるのは事実のようだった。
ダスプリーもまたラブレター探しをしようとしており、ある暑い日、「私」たちは庭を掘り返した。すると白骨死体と、鉄板に描かれたハートの7が埋められているのがわかった。「私」は体調を崩してしまい、そのまま2日間寝込んで、3日目になってやっと起きられるようになったが、その日サルバトールから速達を受け取った。その夜に、事件解決のために2人の人物を対決させるとのことだった。その夜「私」とダスプリーのところへ、アンデルマット夫人が来た。彼女の夫宛ての電報に、この家に来るようにとあったため、彼女は急いでやって来たのだった。
その後屋敷には、アルフレッド・バランとアンデルマットが姿を現した。「私」たちは暖炉に隠れ、成り行きを見守っていた。2人は手紙と資料に関して言い合いを続け、バランが拳銃を取り出したが、その時にダスプリーが拳銃をぶっぱなした。「私」も、そしてバランとアンデルマットもこれには驚いたが、どうやらダスプリーは、アンデルマット夫妻の秘密を握っているサルバトールと同一人物のようで、アンデルマットに、ラブレターとの引き換えのために小切手を切らせ、設計書の原本と資料を出させる。なぜかダスプリーは、アンデルマットの小切手帳を持って来ていたのだった。ラブレターが見つかったのは本来の金庫ではなく、その奥にある別の金庫だった。この金庫を開けるためには、モザイクのカール大帝の剣にハートの7のカードをあてがい、ハートの先端の穴を錐などで突くと扉が開く仕組みになっていた。しかし奥の金庫を開けるには、カードを逆にする必要があり、そのため手紙はなかなか発見されなかったのである。この金庫を作ったのはラコンブだった。
アンデルマットが去った後、バランは金を請求したが、ダスプリーはそれを拒否し、白骨死体がラコンブであること、ラコンブ殺しが兄弟の仕業であり、ラコンブの鞄を奪って設計図とラブレターを手に入れたこと、そして、長年の強盗生活で貯め込んだ物を金庫に隠していたため、それをそっくり自分で盗み出したことなどをバランに伝えた。エティエンヌが自殺したのはこのためで、兄のアルフレッド・バランはそのまま去って行く。ダスプリーはアンデルマット夫人に、夫に渡した手紙は、自分が書き変えた偽物であることを伝え、夫人に本物のラブレターを渡すのだった。その後、自分がルパンであることを「私」に打ち明け、その場を去って行った。
その後、ルパンが「ハートの7」の設計図と資料を海軍大臣に渡したこと、そして潜水艦建設の基金を作るために、2万フランを寄付したことが『エコー・ド・フランス』の号外として出回った。この2万フランとは、ダスプリー=ルパンがアンデルマットに切らせ、バランに渡さなかった小切手の額だった。(了)
要は、ルパンがサルバトールなる架空の新聞記者として署名記事を書き、それによって夫妻とバランを動かし、この中で一番価値が高い物、つまり潜水艦の設計図と資料を手に入れたと考えられなくもありません。夫妻への脅しもなくなり、夫人はかつてのラブレターを夫に気付かれずに取り戻し、ルパンは名声を手に入れ、「私」ことルブランは、ルパンの伝記を綴ることに作家としての意義を見出すわけですから、まずは大団円といったところでしょう。
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